Special Interview with

Patrick Grant

E.TAUTZ

廃業寸前だった英ビスポークの名門〈ノートン&サンズ〉を救い、その傘下にあった〈イートウツ〉に新たなブランディングを施したパトリック・グラントは学生時代、ラグビー選手として自国スコットランドで名を馳せた。大学では主にエンジニアリングを学び、卒業後はそのままエンジニアとして企業に就職。その後、ふたたび大学へ戻りMBAを取得している。子供の頃からネクタイをつけるほどファッションには意識的だったパトリックだが、仕事ではここまでファッションと無縁。だが、とある日のドタキャンが彼の運命を大きく変えた。

「友達とランチの予定を入れていたんですが、むこうが急に来れなくなってしまって。それで手持ち無沙汰になって近くにあった新聞を手に取ったところ、〈ノートン&サンズ〉の売却に関する記事が目に留まりました。まさかサヴィル・ロウのテーラーが売りに出ているなんて! 僕はもともとメンズウェアの歴史やクラフトマンシップの世界に興味を持っていたし、職人たちの雇用を守りたいと思って、すぐ自分で買収することを決めました。そのために家も売り払ったんです」

その後、一時期は〈ノートン&サンズ〉のスーツ生地を他のアイテムに展開したが、「やはりビスポークの品格は保つべき」という考えにたどり着き、サヴィル・ロウの本質を引き継ぐ既製服のラインとして始まったのが〈イートウツ〉だ。 “ちゃんと太い”ワイドパンツやオーバーサイズのコートなど、彼の手がけるアイテムはどこか「ファッション」と「非ファッション」の間に佇んでいるような印象がある。

「私は洋服をつくるとき、謙虚で落ち着いた男性像を想像しています。デザインがインスタグラムで拡散されることに興味はない。強く意識しているのは、トラディショナルなものにすこしの変化を加えること。例えば日本にもファンの多いワイドパンツは、僕がよく履いている1950年代の太いアーミーパンツを見たチャーリー・ポーター(ファッションジャーナリスト)が、『そのパンツは良い形だね』と褒めてくれたことから着想を得ました。あれは元のディテールをすこし削って、よりシンプルな見た目にしているんです」

また、〈イートウツ〉のフルコレクションはオンラインで販売されていない。それは洋服のプレゼンテーションの場として、リテールの「景観」を何よりも重んじているからだという。

「お店にはできるだけ自ら足を運んで、ラックやウィンドウの雰囲気を見るようにしています。LAND OF TOMORROWに関していえば、こんなにスタイリッシュなスタッフが揃うお店は世界中探してもなかなか見つかりませんよ。今回は真にシンプルでエレガントなこのお店のために、前シーズンのジャケットに使用したファブリックでシャツとパンツをつくりました。シーズンの異なる洋服同士でもうまく組み合わせられるようにしている〈イートウツ〉らしい別注だと思います」

現在、〈イートウツ〉はたった4人の小さなチームで運営されている。本人はそれについて「スモールスタートで、少しずつ成長していって……今もまだ小さい(笑)」と冗談めかすが、彼は商品の値段をキープするために自ら進んでその道を選んでいるのだ。彼自身も通勤時は地下鉄に乗ってスーパーで買い物をしているという。その生活にある善きノーマルさは、そのままブランドの哲学にも通じる。

「最近、サステナビリティという言葉についてよく考えます。どのブランドもこぞってこのワードを使いたがりますが、そもそも環境問題とものづくりは常に緊張関係にありますよね。それに対する私の個人的なアプローチは2つです。1つは、小さなトレンドを追わずメンズファッションの大きな流れだけを意識すること。つまり、デザインには10年単位での変化のみを反映させています。2つめは良い生地を使うこと。何千回使ってもへこたれない、あるいは良い経年変化をおこすようなものですね。さらに付け加えるなら、労働環境には細心の注意を払っていて、できるだけチェックの厳しいヨーロッパの工場を選ぶようにしています」